導入事例 5軸補正システムを導入|初品完成までの工数を短縮(大阪府)

大阪府H社へ、5軸補正システムを導入させていただきました。
H社では、オートバイの削り出しパーツ等を加工されております。特に5軸マシニングセンタを使った3次元形状加工においては、高い技術を持っておられます。

■所在地:大阪府東大阪市
■導入時期:2015年9月

1.導入経緯

導入にあたり、H社に現状の問題点や要望等を伺いました。

5軸割り出し加工で、一発良品が得られる精度がほしい。

リスナーエンジニアリング小林:
──御社ではどの様なものを加工しているのですか?

H社:
うちは5軸機を使った削出し加工を得意としています。四角い素材からワンチャッキングで最終形状まで削り出します。この方法がクランプジグが最小限で済むので、小ロット生産には向いているのです。

──加工設備はどの様な機械ですか?

H社:
NMV5000(5軸マシニングセンタ)を使っていましたが、仕事量が増えてきたのでZV400(施削機能付5軸マシニングセンタ)を増設しました。ところがこの機械は一世代前の5軸加工機なので、テーブルの精度が期待していたより悪かったのです。

──精度が悪いというと具体的には?

H社:
例えばこの部品は、ワークの両サイドから穴を仕上げます。同軸度公差はφ0.1mmです。φ0.1mmといえば特に厳しい公差ではありませんが、実際にやってみるとそうでもありません。A軸の旋回中心が理論位置から0.03mmずれていると、反転加工した穴の中心は0.06mmずれてしまいます。心ずれ0.06mmは、同軸度(直径値)で表すとφ0.12mmで、公差オーバーです。

──5軸割出加工の精度が必要ということですね

H社:
そうです。しかも初品の精度が必要なのです。この加工は削り出しですから、加工時間が数時間に及びます。試し加工、精度測定、補正、再加工という手順を何度も繰り返すと工数が増えますし、材料費や工具費もかさみます。小ロットあるいは1品物の場合、初品の加工精度が特に重要なのです。

5軸割出加工の精度を確保するために

第一段階では、旋回中心座標を正確に求めます。
5軸機械は工具先端点制御、ロータリフィクスチャオフセットなど様々な5軸加工機能を搭載していますが、これらの機能は全て、旋回中心座標を基に制御をしています。旋回中心座標が正確に設定されて初めて役立つ機能なのです。

第二段階では、旋回中心座標を基に計算した理論位置と実際の割出し位置の差を補正します。5軸テーブルを使った時の、機械の癖を補正すると言ってもよいかも知れません。

2.導入作業のながれ

※作業のながれは一例です。実際の作業内容と日程は本例と異なることがあります。

初日(事前調査)

導入確定後、通常1〜2日間の実機事前調査をします。

ここで既設の機械の既に使っているプログラム番号やマクロ変数と、新規に導入するマクロプログラムの間で、データの干渉がないかをチェックします。この事前調査時に、現状の精度やシステム導入によってどの程度精度向上が期待できるか、分かる場合もあります。

2日目(マクロプログラムのデバグ)

ボール計測マクロは、30本以上のサブプログラムから構成される大規模なマクロです。これらを慎重にデバグします。機械毎に異なるMコードや、システム変数については特に注意してデバグし、修正していきます。

3日目(自動計測のチェック)

デバグが終わったら、旋回中心の自動計測が正常に動作するのを確認します。

今回の機械では、計測時間は約20分となりました。 時間短縮のために測定点数を減らしたり、測定精度を上げるために測定点数を増やしたりすることもできます。

4日目(誤差データベースの作成)

傾斜軸割出し5度毎の「誤差データベース」を作成します。これにより、割出し加工時にワーク原点位置が補正されます。

この作業で今後の加工精度の良し悪しが決まります。より正確なデータが得られるように、機械の温度を安定させるため、前日の夜から機械の電源と運転準備をONに保ってもらっています。この工場は24時間稼働で空調も整っているので、温度条件は良いと言えます。

最初に旋回中心計測を行います。前日との差は約0.023mmでした。次にB軸-105°から+15°の間を5°毎に割出して、基準ボールの位置精度を測定します。B0°を基準とした時、最も誤差が大きい角度はB-105°でボール中心は理論値からY軸方向に約0.035mmずれていることが分かりました。この様なずれ量をB軸全域にわたって記録し、誤差データベースを作成します。作成した誤差データベースを機械に入力し、再度精度測定をします。この作業を何度かくり返して、最終的には最大誤差0.008mmになりました。

5日目(最終確認)

お客様と最終確認を行います。

割出精度については前日確認していただいたので問題ありません。今回は特別に同時5軸の精度も確認しました。基準ボールの上にダイヤルゲージをセットし、B軸A軸を旋回させた時、X、Y、Z軸がどれだけ正確に追従するかをみます(動画はNMV5000)。同時5軸の精度のかなめは、旋回中心座標の正確さです。このテストでの良好な結果は、ボール計測による旋回中心計測の精度が高いことを示しています。

最後に、従来のプログラム指令を変えずに新しい「データベース補正」を使うための、変換マクロを作成しました。これでCAMのポストプロセッサの変更をしなくて済みます。

旋回中心座標が正確に設定されると、同時5軸運動の誤差が小さくなります。

3.お客様の声

導入完了後、コメントをいただきました。

感覚的に持っていた機械の“癖”と、計測データが合っていたのを見て、うまくいくと確信。

“ 間違いなく精度は上がっているので、初品完成までの工数は短縮できると思います。今までは私が機械の癖を経験で覚えて補正していたのです。例えば、B-90の時はY軸方向に0.03mm程度ずれるから、それをワーク座標に加算して加工する、という具合です。その私が持っていた感覚と、ボール計測で数値化された誤差データが合っていたのを見て、これはうまくいくと確信しました。今後は今まで以上に公差の厳しいワークにも十分対応できると思います。

小林さんの工作機械と加工に関する知識、仕事に対する責任感、そして仕事の結果を見て、流石プロフェッショナルだと思いました。私自身とても刺激を受けました。ありがとうございました。”

今回のZV400での結果が良かったので、同じシステムをNMV5000にも展開することになりました。現在は2台の5軸機がフル稼働しています。

リスナーエンジニアリングより

お褒めの言葉をいただきうれしいです。また、写真、ビデオの撮影も快諾していただきました。多くの工場では撮影が禁止されている中、貴重な写真を撮ることができました。ありがとうございました。

ボール計測マクロ、5軸マシニングセンタの心出し、誤差補正でお困りの方は、お電話またはフォームからお問い合わせください。

お急ぎの方、文章では説明しにくい、何をどう説明すれば良いか分からないという方はお電話がおすすめです。「ウェブで見たボール計測について聞きたい」と言っていただければOKです。精度不良、工数短縮でお困りの方、お問い合わせお待ちしております。